病院紹介の葬儀社をそのまま使うべきか|搬送と葬儀は別の契約です
筆者は本記事で扱うサービスの利用経験・利害関係はありません。本記事は自治体・省庁の公式情報と公開データを整理したものです。
病院から紹介された葬儀社に搬送を頼むとき、搬送の依頼と葬儀の契約は別のものです。葬儀をどこに頼むかを後から決めたい場合は、その意向を最初に伝えて構いません。ただし搬送費の扱いは会社ごとに条件が異なり、実際に食い違いが起きた相談事例も公表されています。国民生活センターに寄せられる葬儀サービスの相談は年間900件前後で推移し、そのうち「高価格・料金」に関する相談の割合は**52.6%(2025年度)**にのぼります。
先に言っておくと、病院が紹介する葬儀社が悪いわけではありません。深夜でもすぐ来てくれる、病院との連携に慣れている——それ自体は大きな価値です。問題は「比較する物差しを持たないまま、動転した状態で全部を決めてしまう」ことにあります。
病院で何が起きるか
親が病院で亡くなると、数時間以内に「ご遺体の搬送先」を決めるよう求められます。霊安室に長くは置けないためです。このとき多くの病院には提携・出入りの葬儀社があり、「よろしければご紹介できます」と案内されます。
深夜、判断力が落ちた状態で、目の前に「すぐ対応してくれる会社」がいる——ここで葬儀までまとめて依頼する流れが自然にできあがります。
知っておくべき1つの事実:「搬送」と「葬儀」は別の契約
搬送してもらったからといって、葬儀の内容までその場で確定させる必要はありません。次のひと言で、意向を最初に示せます。
「まず搬送と安置だけお願いします。葬儀の内容は家族と相談してから決めます。」
これは失礼な言い方ではなく、ごく普通の依頼の仕方です。言い添えるべきなのは、その場合の搬送費がいくらになるかです。ここを曖昧にしたまま進めると、後から食い違いが起きます。
実際に起きた食い違い(国民生活センター公表事例)
国民生活センターの報告書には、次の相談事例が掲載されています(2026年1月受付・60歳代男性)。
広告に記載されていた50万円のプランで申し込みしたいと連絡をし、葬儀場まで搬送してもらった。翌日、葬儀場での打ち合わせの際、予算がないので費用を抑えて家族葬をしたいと伝えたが、葬儀社からは120万円のプランを提案された。契約を見直したい、キャンセルしたいと伝えたが、葬儀をしないのであれば搬送費用として20万円を請求すると言われた。
(出典:国民生活センター「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル」報告書本文・2026年6月3日公表・2026-08-16確認)
この事例では、後から広告を見直すと「お打ち合わせのうえ、ご依頼いただけない場合は搬送にかかった費用はいただきません」と書かれていた、という顛末になっています。つまり搬送費の条件は会社によっても表示によっても違うということです。「搬送だけ頼めば必ず自由に断れる」と一律には言えません。だからこそ、依頼する前に搬送費の条件を口頭で確認しておくことが、この記事でいちばん実利のある一手です。
なぜ「いったん立ち止まる」べきなのか:公的データ
相談件数は高止まり、過半数が「料金」
国民生活センター(2026年6月3日公表「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル」・2026-08-16確認)によると:
- 葬儀サービスに関する相談件数:2019年度632件 → 2024年度978件・2025年度917件(年間900件前後で推移)
- 相談に占める**「高価格・料金」の割合:33.2%(2019年度)→ 52.6%(2025年度)**
- 事例として、広告では50万円のプランを見ていたのに120万円のプランを提案された、「家族葬50万円」の表示を見て依頼したところ見積書にプラン名と一式としか記載がなく、追加費用も発生して総額200万円を超えた、といった相談が紹介されています
同発表で国民生活センターが挙げている「消費者へのアドバイス」は次の4点です。
- 葬儀の希望やイメージを考えて情報収集をしましょう
- 葬儀社との打ち合わせは親族や第三者など複数で行いましょう
- 見積書は必ず受領し、内容(明細)をよく確認しましょう
- 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合には、すぐに最寄りの消費生活センター等に相談しましょう
1点目の解説では、**「もしもの時に慌てることのないよう、前もって葬儀について幅広く情報収集を行い葬儀社へ事前相談しておきましょう」「事前に複数の葬儀社を比較し、内容等をよく確認することが重要です」**と述べられています。比較は「疑い深い人がやること」ではなく、公的機関が推奨している行動です。
葬儀費用は「幅」が大きい
鎌倉新書「【第6回】お葬式に関する全国調査(2024年)」(喪主経験者2,000名・2026-08-16確認)によると、葬儀費用の平均は総額118.5万円。ただし形式によって大きく異なります。
| 形式 | 費用平均(2024年調査) |
|---|---|
| 一般葬 | 161.3万円 |
| 家族葬 | 105.7万円 |
| 一日葬 | 87.5万円 |
| 直葬・火葬式 | 42.8万円 |
同じ「葬儀」でも4倍近い幅があります。 どの形式にするかを家族で決める前に葬儀一式を任せてしまうと、この幅の中のどこに着地するかを他人に委ねることになります。
公営の実額は自分で確認できる
たとえば横浜市営斎場の火葬料金は市民 12,000円(市外 50,000円)、市営の葬祭ホール使用料は戸塚・南部で各室 50,000円、北部で 80,000円(いずれも市民料金)と、市の公式ページで公開されています(出典:横浜市「市営斎場のご案内」・2026-08-16確認)。
見積もりの中の「火葬料」「式場費」が公営施設の公式料金と同じ項目なのか、別の民営施設なのか——公的な定価が存在する項目を物差しにすると、見積もりの読み方が変わります。
現実的な進め方:搬送は頼み、葬儀は比較して決める
- 搬送・安置を依頼する(紹介された会社でよい)。このとき「葬儀は相談して決めます」と意向を伝え、その場合の搬送費がいくらになるかを確認する
- 家族と形式・予算の方向性を決める(一般葬か家族葬か直葬か。→ 形式ごとの費用平均は上の表)
- 複数の葬儀社を比較する(紹介された会社を含めてよい。同じ条件で比較する)
- 見積書は必ず受領し、明細と「追加になり得る項目」を確認する(国民生活センターのアドバイスと同じ)
- 納得した1社に正式依頼する
安置日数には限りがあるため、比較にかけられるのは実質1日前後です。それでも「1社しか見ていない」と「2社を見た」の差は大きい。紹介された会社に決めるのだとしても、比較してから決めた1社なら、後悔の質がまったく違います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 病院に紹介された葬儀社を断ったら、失礼になりませんか? なりません。「搬送だけお願いします」「葬儀は家族と相談します」は日常的に行われているやりとりです。病院に対しても、紹介葬儀社に対しても、非礼にはあたりません。
Q2. 搬送を頼んだ後で他社に切り替えると、費用は無駄になりますか? 搬送・安置の実費は発生します。その金額と条件は会社によって異なり、国民生活センターの事例では搬送後にキャンセルを申し出たところ搬送費用20万円を請求すると言われた例が公表されています(出典:上掲報告書本文・2026-08-16確認)。依頼の時点で条件を確認しておくことが、この摩擦を避ける唯一の方法です。
Q3. 深夜で、比較検討する余裕がありません。 その夜に決めるべきことは搬送先です。比較は翌日の日中にできます。多くの葬儀社が電話・Webで概算見積もりに対応しています。
Q4. 見積もりのどこを見ればいいですか? 「総額いくらか」「そこに含まれない費用(追加になり得る項目)は何か」の2点です。国民生活センターも、見積書にプラン名と一式としか記載がなく追加費用が膨らんだ事例を紹介し、契約に含まれている項目・含まれていない項目を確認するよう助言しています(出典:上掲・2026-08-16確認)。
Q5. 生前に葬儀社を決めておくことはできますか? できます。国民生活センターも「前もって葬儀について幅広く情報収集を行い葬儀社へ事前相談しておきましょう」と述べています(出典:上掲・2026-08-16確認)。
※本記事は特定の葬儀社を推奨・批判するものではありません。相談事例・統計は国民生活センターの公表資料に基づきます。契約に関するトラブルは消費者ホットライン(188)に相談できます。
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出典
- 国民生活センター 依然として多い葬儀サービスの料金トラブル(2026年6月3日公表) (2026-08-16 取得) 相談件数の年度別推移・「高価格・料金」の割合・相談事例3件・消費者へのアドバイス4項目
- 国民生活センター 依然として多い葬儀サービスの料金トラブル 報告書本文[PDF] (2026-08-16 取得) 事例1(搬送後にキャンセルを申し出たところ搬送費用20万円を請求すると言われた例)の原文
- 鎌倉新書 【第6回】お葬式に関する全国調査(2024年) (2026-08-16 取得) 喪主経験者2,000名。葬儀費用の総額平均118.5万円・形式別の平均
- 横浜市 市営斎場のご案内 (2026-08-16 取得) 市営4斎場の火葬料金・葬祭ホール使用料の公式料金
最終更新: 2026-08-16