親の危篤を告げられたら|今日できる準備と、しなくていいこと
筆者は本記事で扱うサービスの利用経験・利害関係はありません。本記事は自治体・省庁の公式情報と公開データを整理したものです。
親の危篤を告げられたら:今日できる準備と、しなくていいこと
危篤の連絡を受けた日に、葬儀社を決める必要はありません。火葬は死亡または死産後24時間を経過した後でなければ行えず(墓地、埋葬等に関する法律第3条)、死亡届の期限も7日あります(戸籍法第86条第1項)。実際の全国調査でも火葬までは2〜3日、関東では過半数が4日以上かかっています。今日やる価値があるのは、お金・書類・搬送先の3つだけです。
まず、これを読んでいるあなたに一つ。**この段階で調べていることは、不謹慎ではありません。**むしろ、国民生活センターが「もしもの時に慌てることのないよう、前もって葬儀について幅広く情報収集を行い」と呼びかけている行動そのものです(後述)。
① 「今日中に決めなければ」と思っていることの多くは、今日でなくていい
急かされている感覚の正体は、たいてい時間の見積もりの誤りです。法律と実測の数字を先に置きます。
(1) その日のうちに火葬はできない
埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に満たない死産のときは、この限りでない。
(墓地、埋葬等に関する法律第3条・出典:e-Gov法令検索・2026-08-17確認)
(2) 実際には2〜3日、地域によってはもっとかかる
喪主経験者2,000名の調査では、火葬までにかかった日数は「亡くなってから2日後」が35.1%で最多、次いで「3日後」29.2%。ただし**関東地方では過半数が「火葬に4日以上かかった」**と回答し、関東の冬季(12月・1月・2月)に葬儀を実施した人では「8日以上」が18.1%にのぼりました(出典:鎌倉新書「【第6回】お葬式に関する全国調査」2024年3月調査・2026-08-17確認)。
(3) 死亡届は7日以内
死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。
(戸籍法第86条第1項・出典:e-Gov法令検索・2026-08-17確認)
届出義務者の順序も条文で決まっており、第一に同居の親族、次にその他の同居者、家主・地主・管理人と続きます。同居していない親族や後見人等も届出をすることができます(同法第87条・2026-08-17確認)。実務では葬儀社が代行するのが一般的です。
つまり、あなたが今日中に契約書へ署名すべき理由は、制度上どこにもありません。
② それでも今日やる価値がある5つ
逆に、今日のうちに手を動かしておくと後が楽になるものはあります。所要時間の短い順に並べます。
1. 連絡する人を、紙かメモアプリに書き出す(10分)
「誰に、いつ連絡するか」を、危篤の段階・逝去後・葬儀の日程が決まった後の3段階に分けて書き出します。この時点で実際に連絡するのは、本当にすぐ会わせたい人だけで構いません。一斉連絡は、日程が決まってからのほうが結果的に手間が減ります。
2. 当座の現金を確認する(15分)
葬儀費用は多くの場合、先に支払いが発生します。一方、親の口座は金融機関が死亡を把握した時点で入出金が止まるのが実務です。「親のお金で親の葬儀を払う」ことが当日すぐにはできない可能性があります。制度としての例外(遺産分割前の払戻し)も含めて 親の葬儀費用を親のお金で払えるか——口座凍結の前に知っておくこと にまとめました。今日確認するのは、自分たちが立て替えられる額はいくらか、だけで十分です。
3. 書類のありかを確認する(15分)
後で必ず要るのに、そのとき探すと最も時間を奪われるものです。
- 健康保険証(または資格確認書・資格情報のお知らせ)——葬祭費・埋葬料の申請に関わります(→ 葬祭費はいくらもらえるか——6都市の実額一覧(3万〜7万円))
- 年金手帳・年金証書
- 互助会の会員証・契約書——加入していれば葬儀費用に充てられる可能性があります(→ 互助会の積立で葬儀費用はまかなえるか——前払式の仕組みと実額)
- 生命保険の証券
4. 搬送先・安置先の見当をつける(20分)
病院は、亡くなった後に長く安置しておく場所ではありません。**搬送は、葬儀本体より先に必要になります。**自宅に安置できるのか、それとも葬儀社の安置施設や公営斎場の霊安室を使うのか。この見当だけつけておくと、当日の判断が一段軽くなります。
5. 葬儀社を「2社」見ておく(決めない)(30分)
決めるのではなく、比較の土台を作るだけです。同じ質問を2社に投げられる状態にしておきます。
- 火葬料は含まれていますか(公営火葬場の使用料は、多くのプランで別料金です)
- 安置は何日分含まれますか。超えたら1日いくらですか
- 搬送は何kmまで含まれますか
- 見積書は明細付きでもらえますか
火葬料そのものは自治体の公式料金で決まっており、葬儀社では変わりません。名古屋市の5,000円から都営・瑞江葬儀所の59,600円まで、都市によって大きく違います(→ 火葬料金の6都市比較——市民5,000円から70,000円まで)。
③ いちばん危ないのは「搬送を頼んだ流れで、そのまま契約する」
国民生活センターが2026年6月3日に公表した資料の相談事例を、原文のまま引きます。
母が入居していた施設で亡くなった。すぐに遺体を搬送する必要があり、インターネットで近所の家族葬を取り扱う葬儀社を調べ、広告に記載されていた50万円のプランで申し込みしたいと連絡をし、葬儀場まで搬送してもらった。 翌日、葬儀場での打ち合わせの際、予算がないので費用を抑えて家族葬をしたいと伝えたが、葬儀社からは120万円のプランを提案された。契約を見直したい、キャンセルしたいと伝えたが、葬儀をしないのであれば搬送費用として20万円を請求すると言われた。担当者に次の予定があるとせかされ、仕方なく提示されたプランから食事や貸布団等のオプションを外し、約120万円の契約書に署名した。
(国民生活センター「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル」報告書本文 事例1・2026年1月受付・出典:同センター公表PDF・2026-08-17確認)
この事例には続きがあります。相談者が後から広告を見直すと、そこには「お打ち合わせのうえ、ご依頼いただけない場合は搬送にかかった費用はいただきません」と書かれていました(同・2026-08-17確認)。
**搬送を頼むことと、葬儀を頼むことは、本来別の契約です。**搬送だけ依頼して葬儀社は改めて選ぶ、という順番もあり得ます。この判断の順序は 病院で紹介された葬儀社をそのまま使うべきか——搬送と葬儀は別の契約 にまとめています。
同センターの消費者へのアドバイスは4つです(報告書本文・2026-08-17確認)。
- 葬儀の希望やイメージを考えて情報収集をしましょう
- 葬儀社との打ち合わせは親族や第三者など複数で行いましょう
- 見積書は必ず受領し、内容(明細)をよく確認しましょう
- 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合は、すぐに最寄りの消費生活センター等に相談しましょう(消費者ホットライン「188(いやや!)」番)
とくに2つめは、危篤の段階で準備できることです。**打ち合わせに同席してくれる人を、今日のうちに1人決めておいてください。**同センターは「葬儀社との打ち合わせを喪主一人で行うと、説明の聞き漏らしや確認不足が生じる恐れがあります」と述べています(同・2026-08-17確認)。
④ 今日の時点で頭に入れておく、2つの数字
(1) 相談の平均契約購入金額は、2025年度で約109万円(国民生活センター・n=3,762・2026-08-17確認)。これは苦情相談として寄せられた契約の平均であって相場ではありません。相場の目安としては使えませんが、あとで立て替えることになる金額の規模感の参考にはなります(→ 親の葬儀費用を親のお金で払えるか——口座凍結の前に知っておくこと)。なお同センターの資料は副題を「『家族葬だから安い』と思っていませんか?」としています。
(2) 相談者の平均年齢は62.7歳、年代別では50歳代からの相談が最も多い(同・n=728・2026-08-17確認)。つまり、いま慌てているのはあなただけではありません。同じ立場の人が最も多く相談している年代です。
⑤ しなくていいこと(はっきり書きます)
- 喪服を今日買いに行く——葬儀の日程が決まってからで間に合います
- 訃報の一斉連絡の下書き——連絡先を書き出すのは有効ですが、文面は日程が決まってからです
- 葬祭費・埋葬料の申請の準備——死亡後の手続きです。条文上の時効は「権利を行使することができる時から二年」(国民健康保険法第110条ほか)で、多くの自治体は起算日を「葬祭を行った日の翌日」と案内しています(→ 葬祭費の申請期限は2年——時効で消える給付金の申請手順)
- 香典返しの検討——先の話です
- その場での葬儀社の契約——上記③のとおり
- 祭壇や棺のグレードを今から悩む——見積書の明細を見てから判断できます(→ 葬儀の追加費用はどこで発生するか——式場・休憩室・待合室の公式料金)
⑥ 親がまだ話せるなら、聞くのは2つだけ
もし会話ができる状態なら、聞いておく価値が高いのは次の2つです。あれこれ聞くと尋問になります。
- うちは何宗で、お墓はどこのお寺か——僧侶の手配と納骨の段取りが決まります(→ 四十九日・一周忌の僧侶手配とお布施——定額サービスの実額)
- 呼んでほしい人は誰か——葬儀の規模、つまり形式と費用の方向性が決まります
聞けなくても葬儀はできます。宗派は仏壇・位牌・墓石や親戚から、交友関係は年賀状や携帯から再構成できます。生前に話しておく方法は 「何もわからないまま喪主になる」を避ける——生前に決めておく3つ、そもそも調べること自体への罪悪感については 親が生きているのに葬式を調べるのは不謹慎か に書きました。
よくある質問(FAQ)
Q1. 危篤の連絡を受けた時点で、葬儀社に相談してもいいのでしょうか? 問題ありません。国民生活センターも「もしもの時に慌てることのないよう、前もって葬儀について幅広く情報収集を行い葬儀社へ事前相談しておきましょう」と述べています(報告書本文・2026-08-17確認)。相談することと契約することは別です。
Q2. 病院から「早く搬送先を決めてください」と言われました。 搬送先を決めることと、葬儀社を決めることは分けられます。まず搬送だけを依頼し、葬儀の契約は改めて検討する、と伝えて構いません。国民生活センターの事例1のように、搬送後の打ち合わせで想定と大きく違う提案が出ることがあります(2026-08-17確認)。
Q3. 遠方に住んでいます。今すぐ向かうべきですか? 医療上の判断は主治医に確認してください。本記事で言えるのは、火葬は死亡後24時間を経過しないと行えず(墓地、埋葬等に関する法律第3条)、死亡届の期限も7日ある(戸籍法第86条第1項)ため、移動を終えてから決めても間に合う事項が多いということです。
Q4. 危篤のうちに親の口座からお金を下ろしておくべきですか? 本記事では推奨も否定もしません。相続や預貯金の取り扱いは法律の領域で、状況によって適切な対応が変わります。制度としての「遺産分割前の払戻し」(民法第909条の2)の存在も含め、親の葬儀費用を親のお金で払えるか——口座凍結の前に知っておくこと に整理しました。判断が必要な場合は、金融機関および弁護士にご確認ください。
Q5. 火葬場の予約は誰が取りますか? 通常は葬儀社が代行します。火葬には市町村長の許可が必要で、許可を受けると火葬許可証が交付されます(墓地、埋葬等に関する法律第5条・第8条)。火葬場の管理者は火葬許可証を受理した後でなければ火葬を行えません(同法第14条第3項・2026-08-17確認)。公営火葬場は料金が安い分、希望日に取れないことがあります(→ 公営斎場と民間斎場は何が違うか——使える人・料金・待ち日数)。
※本記事は一般的な情報の整理であり、医療上・法律上の判断を示すものではありません。条文および国民生活センター・鎌倉新書の調査は2026年8月17日、火葬料は2026年8月16日時点で確認したものです。個別の判断は主治医・葬儀社・自治体窓口・専門家にご確認ください。
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出典
- 墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)e-Gov法令検索 (2026-08-17 取得) 第3条(埋葬又は火葬は、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない)・第5条(市町村長の許可)・第8条(火葬許可証の交付)・第14条第3項(火葬場の管理者は火葬許可証を受理した後でなければ火葬を行つてはならない)
- 戸籍法(昭和22年法律第224号)e-Gov法令検索 (2026-08-17 取得) 第86条第1項(死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内に、これをしなければならない)・第87条(届出義務者の順序=同居の親族、その他の同居者、家主・地主・管理人)
- 国民生活センター 依然として多い葬儀サービスの料金トラブル(2026年6月3日公表) (2026-08-17 取得) PIO-NET相談件数の年度別推移(2019年度632件→2025年度917件)/「高価格・料金」の割合(2025年度52.6%)/消費者へのアドバイス4項目/令和6年の死亡数は約161万人で厚生労働省の調査開始以来最多
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最終更新: 2026-08-17